√yūto #05 悪戯

ボクは忘れていない。

パパがしてくれた約束を…


医者にしてくれるという事を…


でも、ソレは直ぐに全部嘘だと判った…



パパに従うままに生きてたのは…

あの日、園長先生からボクを連れ去った時…




-11年前-


玄之助:「お前、娘がいいって言ってなかったか?」


紫苑:「いいのいいの♪人間顔が一番なんだから♪」


玄之助:「ふっ、いい加減な女だ。
     しかしあの孤児院の男、偉そうに…
     金は受け取らないからコイツの夢を叶えろだとよ。
     汚ねぇ貧乏人らしい発想だ。
     ガキ共々潰してやろうかと思ったぜ。」


紫苑:「まぁ怖い♪ でもあんたの演技にはビックリね。」


玄之助:「バカ言え、お前も何が流産だ。
     どーせ客の男で胎んだのを堕しただけだろ。」



怖かった。このヒトたちに殺されると思った

そして園長先生園のみんな一緒に


だからボクは絶対逃げなかった


何で判らなかったんだよ園長先生…
ボクはあの時、先生と一緒に居たかったんだよ…




パパからの忠告を受けて以降、

ボクはホテルにも屋敷にも帰らなかった。


そしてもうその事で大きなモノが動く事もなくなった。



学費至っては学費以上の金が既に学校側に渡されている。


登校時に担任からクレジットカードと、

学校の制服カバン

替えの下着や服が入ったリュックを渡された。


要はパパからの、

「もう帰って来るな」の伝言だった。



ボクは陸咲財閥社長、

陸咲玄之助の養子である立場から

自ずと"陸咲"の名で呼ばれる事が殆ど。

だからあんなパパであろうとも

久々に会って、名前で呼んでもらえた事は正直うれしかった。

大袈裟かも知れないけれど、名前で呼ばれると

ボクはちゃんと存在してるんだって思えるんだ。



"友人" 

園長先生が名無しのボクにくれた名前。


園長先生がボクへの願いを込めてくれた名に反して

"友"も出来ず作らずずっと独りでいた

"人"らしく生きる事なく操り人形のままでいた


ゴメンなさい、先生…



今のボクも鎖を外された訳ではない

何処に逃げた所で、

カードを使えば居場所が判る

本当に、パパは用意周到だな…。



拾ったものの懐かず捨てられたネコの様に、
ボクはまた振り出しに戻ってしまった。



しかし本当にコレからどーしよっかな~。

公園で満月に照らされながら、

自分の無力さと、逃れられない権力


ボクって一体誰なんだろう。


もし初めからイイコだったら、
ボクは本当の両親の下に居られたのだろうか。


そんなくだらない想いが生み出した後悔で、

園長先生に拾われた日に戻ったかの様に

ボクは啜り泣きながら、途方に暮れていた。



「キミ…こんな時間にどうしたんだい?」


ボクが座るベンチの前を通り掛かった青年が、

自転車を停め、近寄ってきた。


パンダさんだったら全力で逃げていた。


『いえ、両親と喧嘩をしてしまって、
 顔を冷やしにココに居ただけです。
 そろそろ帰ろうと思っていたので
 大丈夫です、ありがとうございます。』


御礼を告げ、カバンを持って立ち去ろうとした時、

彼がボクの右肩を掴みながら声を投げかけた


「キミ、星状学園高校の生徒だろ?なら後輩だ。
 僕はその上の星状大生、といってももうすぐ卒業だけど…
 本当は家出したんだろ?でもココに居るのはマズい。
 取り敢えず僕の家においで。話ぐらいなら聴けるからさ。」



捨てる神在れば拾う神在りだ。



「ゴメン、散らかってるけど遠慮なく上がって。
 あんな所にずっと居てお腹空いてるだろ?
 僕も夕食まだなんだ。直ぐ作るから適当に寛いで待ってて。」


ココに来る間に何度もお腹が鳴っていた

完全に聴かれていた…恥ずかしい。。。


しかし彼の部屋に置いてあるのは難しい学術書だらけ

うわぁ…でも理数系ばっかり、正直ボク苦手;

医者を目指した手前やむを得なかったけれど

親に隠れて…(主に漫画だケド)を読むようになってから

文学の面白さを知って、気づけば文系寄りになってしまった


ケドちょっと面白そう、って勝手に見ちゃだめですよね勿論;


でもそれ以外は殺風景というか殆ど何もないなぁ。

こんなに勉強して面白いのかな。

特にこの分野に関してはボクは全然面白く感じた事はない…。



「つまらない本ばっかだろ?でも面白くてね。
 さ、一先ず育ち盛りの子はいっぱいお食べなさい。」



女子力たけぇ…!!

あれ、使い方合ってるかな;



しかもすんげぇ美味い…失礼、とても美味でございます。


『あの、こんな良くして頂いて申し訳ございません…。
 実はボク…その…。』


食事を振る舞って頂いている最中だったが、

正直、こんなに良くして頂いた経験が少ない事から

居てもたってもいられず、

ボクは箸を置き、素直に事情を話そうとした。



「話したくないなら話さなくていい。
 キミ、派手な髪型している割に
 意外としっかりしてるんだね(笑)
 あ、ゴメンな、自己紹介もまだだったね。
 僕は早乙女。早乙女眞白(さおとめ・ましろ)。」



女子力たけぇ…

じゃなくって…;


洗練された彼に似合う綺麗な名前を羨ましく思った。



『すみません、ボクも申し遅れましたが
 陸咲友人と申します。
 早乙女さん、今日は本当に御世話になりました。』


何故か口を押えながら彼が笑う。


「ゴメン、その格好でどっかの御曹司の様に話すから(笑)
 もしかして厳しい環境に居たのかも知れないけど、
 僕には気を遣わないでくれていいよ。
 ソレに"早乙女さん"はまだ少し呼び慣れてないから、
 せめて眞白さんって呼んでくれない?
 その代り先輩として僕も"友人"って呼ばせてもらうぞ?」



こんな風にボクと接してくれたのは、

記憶の中でも、園長先生や園のみんなだけだった。

そしてそのみんなにも今は合す顔がない


温かい。この温かい瞬間がずっと続けばいいのに…

でもそんな叶わない願い事をするのはもうやめたんだ。



眞白さんは片付けや洗い物までしてくれた。

申し訳ないと思いつつ、

正直、長年のお屋敷暮らしのせいで

この一連の作業はやった事がないため恥を掻かずに済んだ;


『色々とありがとうございました。
 ボク、やっぱり家に帰ります。
 両親も心配…きっと心配していると思うので。』


そんな訳がない。でもこれ以上迷惑を掛けられない。


すると眞白さんがまたボクの右肩を掴んだ

そしてゆっくりとボクを彼の正面に振り向かせた



「気を遣うなって言っただろ。
 嘘を吐くんじゃない、キミは家には帰らない。
 キミさえよかったらココに居ろ。
 いいか友人、ココに居たいか、居たくないか
 返事は一つだ、"はい"か"いいえ"で答えろ。」


ハッとした。まるであの瞬間と同じだった

あの時ボクは園長先生に、

間違った気持ちを受け止められた。

だから今度は正直な気持ちで彼に答えなければならない。


じゃないとボクの心は…


また汚される…



『はい。』



その夜ボクは、小さなベッドで

背の高い眞白さんの体温を包んだ布団で

いつかの懐かしい温もりを感じながら、眠りに就いた。




朝起きると、眞白さんは既に出掛けていた。


ルーズリーフの書置きに、

朝ごはんは冷蔵庫

昼ごはんは鍋を温める様にと書いてあった。

そして、ちゃんと帰りを待っていてくれ…と。


あんまり優しくされるのもちょっと困る

勿論慣れないっていうのあるけど、

本心は、また"壊れてしまわないか"という気持ちで。



こんなにゆっくり時間が過ぎるのは初めてだ。
こんなにゆっくりなのかな…時間って…


特にやる事もなく、独りで授業を再開した。

正直将来の事は余り考えていなかった

医者になろうとした所でさせてはくれない

良くてあの銭ゲバの下で、

闇に汚されながら働かさせられるだけだ。

そう思うとこのまま進学しても、

一体何になるのだろうという気持ちは否めない。



でも今はちょーっと休憩♪♪



好きにテレビが観られるのってこんなに幸せなのか…


好きにゴロゴロダラダラ出来るってこんなに幸せなのか…


好きにベランダに出て「あぁお日様あったかい…」って


感じる事が幸せ…



もういいですよね、はい。


けれど、誰かの帰りを待つって何か寂しい

"帰ってくる"のを待つ

ただソレだけで当たり前の事なんだけど

そんな感覚が何故かボクには判らなかった



チラチラドアの丸い穴を覗いて

玄関の前で体育座りの繰り返し

解せん…

落ち着かない。。。


待ち草臥れてウトウトした頃

カチャカチャっと音がして、薄明かりが射しこんだ



「遅くなってすまない、ただいま。」



おせーよ、どんだけ寂しかったと思うんだよ…


でも…

『おかえりなさい。』



イヌ科ネコ科、少なくともボクは"ヒト"に非ず;



眞白さんは忙しそうだ。


ボクも彼の事は自分からは聴かない様にしている

眞白さんも本当はボクに聴きたい事が山積みの筈

ぎこちないとは思いつつ、理由は何であろうと、

ココに住まわせてもらっている事は感謝の限りだ。



「そういや昨日、夜遅くて風呂入らなかったな。
 友人、一緒に入るか?」



ぇ。。。



ダメダメダメ、ソレは流石に無理無理ムリ…

例え同性であってもいつかの部室事件の様に、

幾ら優しい眞白さんでも絶対に笑われてしまう。。。

いや、笑わなくとも心の中では腹を抱えるだろう…。

こんな場面でコンプレックスの波が押し寄せるとは;


『いえ、独りで早く済ませますんで
 眞白さん、よかったら先にゆっくり入ってください。』


「そっか。じゃぁ友人、僕は食事の支度をするから
 その間にゆっくり入ってくるといい。」


ホッ…一先ず切り抜けた。



しかし正直昨日から変な汗だっくだくで、

そんな汚い身体のままで

眞白さんの隣で寝させてもらってしまったから

今夜はしっかり綺麗に洗お;


一先ずゴシゴシした所で

チャポーン…

広かろうと狭かろうと、お風呂はやっぱり大好きだぁ。。。



「友人、替えの下着の横に
 僕のお古だけど着換えの服とバスタオル置いとくよ?」


『はい!ありがとうございます!ブクブクブク…』


…まだ親の買ったパンツを穿いてるのか…
…高校生にしちゃ珍しいが逆に厭らしい…
…しかも染みついた匂いまでガキくさい…


ガラララララ…


ちょっとのぼせてバスタブから手をブラブラしていた時、

まるで晴天の霹靂の様に眞白さんが入って来た


『げぇーっっ!! 何ですか突然ビックリするじゃないですか!!!!』


透かさずさっきゴシゴシしたタオルで身を隠した



「すまん、どうしても気になった事があってね。
 キミが親に暴力を振るわれてないか一応、確かめたくて。
 ついでに背中、洗ってやるから。」


そっか、やっぱり眞白さん心配してくれていたんだ

だったら変に隠すと逆にマズいかな

でも。。。ま、ココだけタオルで隠しときゃいっか;



「本当、ツルツルのスベスベだね。
 何か子供の身体を洗ってやってる様で不思議な感覚だよ。」


ガマンだ…ガマン…。


「よかった、痣もなく綺麗だ。疑ってしまってゴメンな。

  でもすまん、下はまだだったよな。」



『えっ??』



聞き返す間もなく、眞白さんがボクのタオルを取り上げ

瞬時に、バスルーム全体の空気が張り詰めた



『見ないでください!!』



笑われたくなかった…。


ボクは膝を抱えながら俯き、

眞白さんが左手に持つシャワーの流水音が虚しく響いた。



「恥ずかしがる事じゃない。まだ高校生だろ?
 大丈夫、イヤでもコレから身体は大人になるさ。」



きっと心の中ではバカにして笑ってるんだ。

眞白さんだってきっと…。


『子供扱いはやめてください!!
 ボクはもう17歳です、立派なオトナなんです!!』



眞白さんが気を遣ってくれてるのにも関わらず、

ボクはソレを無にするかの様に吐いてしまった。

コレできっと、キラわれてしまう…。



すると眞白さんが、いつもより低い声で呟いた。



「ならキミが、本当に大人かどうか

 僕がキミの代りに検査してあげよう。」



ソレがボクと眞白さんの、最初の過ちだった。


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