(新) √yūto #01 孤児

"汚れているんだ… ボクは身体も存在も…"



或の日ボクらは、かくれんぼをしていたんです。


クヌギの木の穴の中に隠れてて、

居心地がよくってそのまんま寝てしまいました。


目が覚めたらすっかり暗くなってて、

両親に怒られると思って帰ろうとしたんですね。


すると、何人かの足音が聴こえてきたんです。

森は夜になると"百鬼夜行"という、

お化けの行列が歩くと父から聴かされていて

ボクは怖くって恐る恐る穴の中から顔を出したんです。


そうしたら、オトナの人たちに

一緒にかくれんぼしていたコが、

連れられて歩いて行くのを見ちゃって…。


父の話は本当だったんだって思いました。

それでますます怖くなって、家に帰ったんです。


すみません…そのあとの記憶は想い出せません。




-15年前-


「園長見て下さい、あの木に隠れてるの…
 あれまだ小さい男の子じゃないですか?」


私は平十児童養護センターの園長

聖丸(ひじりまる)と申します。


彼が3歳の頃の話です。

この島を襲った集中豪雨の翌朝の事でした。


私は施設の皆さんと一緒に、

前日の災害による倒れた木や土砂を片付けていたんです。

ボランティアとして働いてくれていた青年が、

木陰に小さな男の子が隠れているというので駆けつけてみると

まだずぶ濡れで手足が泥だらけの彼が、

可哀相な位に震えていたんですね。


近づこうとすると逃げようとするので、

まず私は彼に「もう大丈夫だよ!」と声を掛けたんです。

すると恐る恐るですが近寄ってきてくれて

思いっきり抱き締めて頭を撫でると、

まるで赤ん坊の様に凄い勢いで泣きだしました。


身体も相当冷え切っており、

精神的にも憔悴しきった様子だったので

一緒にお風呂に入って頭と身体を洗ってあげて、

他の園児の分の残り物ですが、給食を食べさせました。


ですが何処を当たっても身元が判らず

出生時の印章もされていなかったのです。

残念ですが、彼は捨てられていたのでした


最近はこういったケースが増えつつあります。

例えば愛人の子を身籠ったものの認知されず、

陰に隠れて育ててみたものの

やがて育児に堪えられなり放棄してしまうケース

私はそれで命を失わせてしまうのなら、

勿論こうして保護してあげたい気持ちです。


ですが最近の風潮は命を軽率にしている所があります。

誰かが何とかしてくれると甘える方々には

子供を産んで欲しくはないというのが正直な気持ちです。



名前は勿論

生きる上で必要な属性や正確な生年月日

その何もかもが不明なため、

先ず病院で検査を受けさせた所、

彼は軽度の記憶喪失と失語症でした。


そしてRGB"カラーレス"という、

極めて珍しい型である事も判明しました。


閏年に当たる凡そ3年前に生まれたとみられ

私が彼と出逢った日を、彼の誕生日にしました。


怪我は恐らく森の彷徨っていた時のもので、

痣なども見つかりませんでしたが

念のためレントゲンを撮り、

幸い、異常は見つかりませんでした。

定期的な暴力は受けてはいないと安堵したものの、

相当な精神的ショックを受けていたのでしょう。



もない彼は社会的には居ない存在です。

里親が直ぐに見つかれば良いのですが、

現実はそう上手くはいきません。


私は彼を妻との養子として迎える事を決め、

独りぼっちの彼がこれから沢山の良き縁に恵まれ

何よりも"人"らしく在りのままで生きて欲しいと、

それで彼に"友人(ゆうと)"と名付けたんです。


そんなあの子も、もう高校生ですか。

年頃の男の子として、

良き友たちと笑顔で居てくれたらうれしいです。




そして少しずつも、

私達に心を許して話すようになった彼は

優れた知能を持っており、私達も驚かされました。

まだ幼かったですし、両親に教わったとはいえども、

同年齢の平均知能指数から群を抜いたレベルでした。


5歳になる頃には小学校高学年までに習う筈の、

勉強科目の殆どが出来たのです。


そんなを駆けつけたのか、

とある里親希望の夫婦が彼に逢いに来ました。


正直、私はその夫婦には良い印象を受けませんでした

お金をチラつかせる傲慢な態度の男性と、

明らかに歳の離れたギラギラの装飾を纏った女性


応接室へと案内する間も、

「誰がいい?」と男性が言うと、

「可愛い子がいい!」と女性が言う。


まるでペットを買いに来ている様な感覚としか思えません。


この場でお引き取り願おうかと思いましたが、

それでは彼の将来のチャンスを私が独断で奪う事になります。

グッと堪えて彼が待つ応接室のドアを開きました。



私は前日彼に、

はいいいえは正直に言う様に言い聞かせ、

それ以外は彼自身の気持ちを大切にする事を選びました。


「君、好きなものは何かな?」男が尋ねる。


『いいえ』と彼が答える。


「じゃぁ何かなりたい夢とかあるかい?」と男が続ける。


すると暫く彼が頭を傾げて考え出しました。

そして次に口にした言葉に私は驚いたのです。



『お医者さん…

 お医者さんになりたいです。』



私は彼と出逢ってから、

そんな夢を一度も聞いた事がありませんでした。

今想い返しても不思議な瞬間でしたね。


「そうか、こんな小さいのに大したもんだ。
 実はおじさんにはお医者さんの友達が沢山居てね。
 おじさんが君のパパになれば全部夢を叶えてあげられるよ。」



陸咲財閥の社長陸咲玄之助(くがさき・げんのすけ)

愛人は疎か、再婚を何度も繰り返していました

隣の女性はその三人目の妻陸咲紫苑(くがさき・しおん)

そして玄之助には前妻との間に生まれた長男である、

陸咲灰混(くがさき・かいま)が居り、

現在三人で暮らしているとの事です。



「私もこの人との子供を作りたかったんだけど…流れちゃってね…。
 だからこんなに可愛い顔の友人君が
 私の子供になってくれたらうれしい!」


この女性、元は玄之助の愛人で、水商売上がりと聴いています。



そして玄之助がトドメに入る。

「妻の言う通り、息子には弟を作ってやれなかった。
 君とは二つちょっと上のお兄ちゃんに当たるから、
 きっと兄弟仲良く過ごせると思うよ?どうかい?」



大人の私からは何もかもが胡散臭く感じました

この男の中身は知らないものの、

大病院の数々に多額の金を入れているという噂もあります。

ですが幼い有能な彼の育成には、

申し分ない程の環境である事にも違いありませんでした。



私も彼に尋ねました「友人の気持ちはどうだい?」と。


じっと私を見つめる彼の眼差しがとても悲しげでした。

"困っている"、そして私を"気遣っている"

そんな眼差しでした…。


これでは彼の本当の気持ちが言えないと思い

そこで私は彼と昨日約束した事を利用したんです。


「友人、先生が今から尋ねる事に、
 "はい"か"いいえ"でいいから答えなさい。」


素直にコクリと彼が頷きました。


「友人は先生のことが好きかい?」


『はい。』


夫婦らは何を言い出すのかと言わんばかりに騒めく。


私は続ける。「もし先生が病気になったら助けてくれるかい?」


『はい。』



そして…「なら陸咲さんの家で勉強してお医者さんになってくれるかい?」



…はい。…



大喜びの玄之助は彼の頭をぐしゃぐしゃしながら頬擦り寄せ

それに少し戸惑いつつも笑顔が綻ぶ彼を見て、

寂しいと思いつつも、これで良かったと心からそう思いました。


勿論、里親になるには厳しい審査があり

また養子縁組にも大変な手続きがあります。


陸咲玄之助、彼の新しい父にも再三確認を交わしました。

そして、短い間ではあったものの

元父として彼への思いの丈願いを託しました。


あの日、陸咲さんと固く交わした握手

誓い合った約束を私は一度も忘れた事はありません



こうして彼は、

陸咲友人としての人生を歩み始めたのです。


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