(終) √episode:0 #10 天罰

トレードから16年後、
我が子らの3歳の誕生日の事だった。



浅黄は昼間からケーキ作りに張り切っている。


「ママが怒るからダメ」と嫌がる長男の透黄

次男の有黄が無理矢理外へ引っ張って行く


私はいつもの様に、


『遠くに行ったら承知しないぞ!』


一喝し、素直に頷く二人を見送った。


今日は束の間だがと研究が出来そうだ。


夕方、案の定子供らが帰って来ない

私も浅黄には、「甘やかし過ぎ!」といつも怒られていた



『浅黄すまん…、迎えに行ってくる。』



またか…と思いつつ玄関で靴を履き、ドアを開けた。


すると玄関の前に大きな男が立っていた



無形十司さん

 いや…こう呼ぼう、デリガー・レヒト。」



黒服の胸元に国際警察のバッジを見つけた


『何を仰りたいか判りませんが、

 私に何か御用ですか?』


背中が凍り付き、スーッと一雫の汗が走った。



「いや、お見事ですよその瞳。

 さすが元・天才科学者だ。
 そして…現・テロリストめ。」



私は震える声を腹の底から吐き出し、
キッチンに居る浅黄に急いで子供達と逃げる様に促した。



「いやいや、貴方は唯の序でだ。
 今日の用は、

 そちらの奥さんとお子さんたちだ。」



…こいつらは"クロスイエロー"を狙ってる…


私はここの主です。

 畏れながら私を通して頂けませんか?』



男の高笑いが響く。


男の後ろから枯れ木を踏む重い足音

それに続く小さな足音が聴こえ、

引き連れの国際警察共が現れたかと目線を向けると

新たな男と共に、口を塞がれ鎖を繋がれた透黄が居た


私が遊びに行かせたばかりに、

透黄人質にされてしまっていたのだ。



『馬鹿な真似はやめろ。

 そしてその子を返せ!!!!』



男は私の右目に銃口を向け


お前裏切り者には感謝してるんだよ…
 お陰様で色々とこちらの手間が省けてね。」



そう、捕まえようと思えば直ぐに捕まえられた

だが奴らは私達の遣り取りをハッキングし続け

"クロスイエロー"の謎が解明される

その瞬間をずっと待っていただけなのだ。



『私は好きにしていい。

 データなら全部くれてやる。
 だが家族は関係ない筈だ!!!!』



呆れた顔をした男が私に顔を近づける。


データだと?

 ハハ…それがコイツらなんだよ!!!!
 お前らのデータは疾うに持っている。
 つまり、お前はもう用済みって事だ。」



男が私に言い放つと、
隙を見た浅黄が慌てて私の下へ駆け寄ろうとした。



『馬鹿!! 来るな!!!!』



その瞬間、男は私の右目を打ち抜いた


逃げてくれ…頼む…逃げてくれ…



「さあ、奥さん行きましょうか?」



男が浅黄に手を差し伸べた瞬間

眩い光が射すと同時に地面が響き始めた



『浅黄、駄目だ!! を使うな!!!!』



晴れ渡った空が一転し暗黒の雨雲に覆われる。
迫る轟音でうねる様に地面が揺れ出す。



私はメシア雷神の裁き。…



浅黄が呟いた瞬間、
空から男を目掛けたプラズマが命中した。


男は一瞬にして灰になり、風と共に流れていった。


浅黄のに腰を抜かした連中は、

「化け物」と叫びながら、透黄を置いて逃げていった



そして浅黄はプライマリーの力で、

私の命を助けようとした。


しかし彼女に残されたはもう僅かである。


従ってこれ以上、そのを使えば彼女自身が死んでしまう



『浅黄、金を持って遠くへ逃げろ…
 そして透黄と有黄を頼む…あと…』



どうしても最期に告げなければならない事があった。


そう、それは"無形十司"ではない、私の正体である。


告解した私に、浅黄はクスクスと笑った

そして、いつもの様に微笑みながら私に語り掛ける


「貴方って、本当に素直ね?
 笑う場面じゃないのに…もう…
 私も本来は二人で在りしもの
 けれど、貴方が二つに分けてくれた
 今は私も一人そして貴女と二人
 それに本物の証は、既にもらっているわ。」



彼女は紛れもない"メシア"だった


そして私は、

「パパ…パパ…」と泣きじゃくる透黄の頬を撫でながら



『透黄、パパは悪い事をしたんだ。
 だからちゃんと良いパパになれるように、
 遠くへ行って、また勉強しなきゃならない。
 会えなくなるけど、みんなを思いながら頑張るからな。』



私を見つめる二人の顔が白くぼやけていく。


可能な限り最期まで、二人の温もりを感じていた。



ダンッ…



森に一発の銃声が聴こえた様な気がした。


白くぼやける浅黄の身体が赤く染まっていく様に見えた。



冷えきった私を抱く温もりを感じながら、

そして絶え間なく私を呼ぶ声を聴きながら


私は再度と開く事のない瞳を閉じた



私は神を信じない。


だが神になろうとする者には、必ず制裁が訪れるだろう。


人間が幾ら近づこうとした所で紛い物にしかなれない。



創造と破壊は紙一重。


生命科学者の私が受けた制裁もまた然り。



最後にもう一度言う、

人間は神にはなれないのだ。






-章を偽造し、スフィアに加担した罪
 国際指名手配が掛けられている
 元生命科学者・無形十司のデリガー・レヒト
 潜伏先の三音・九京の平十島にて遺体で発見されました
 
 同日この島一体ではゲリラ豪雨が観測されており、
 当初、警察本部では被害の犠牲になったとみられましたが
 検察側の調べによると、木々が遺体を守る様倒れていたとの事です。-