√episode:0 #06 31年前の超常現象

スフィア側からの連絡で、
"北緯: 32°25'55.70"
"東経: 72°04'38.03"の位置に
大きな変動があるとの知らせが入った。


順調にゲートが開くという仮定で計算すると、
その瞬間の凡その時刻は
皮肉にも私にとって嫌いな数字が連なった、
3月3日の午前3時3分頃である。



私と、スフィアの私との計画

同時刻同じ場所を通過する飛行機の便に乗る

其々のゲートを交差

飛行機ごとトレードするというテロ的な行為だ。


計画が成功すれば、

其々が何事もなかったかの様に別次元の同じ場所に到着する。


そしてトレードした世界で更なる研究の追及が可能になる。



しかし、計画の成功と同時に重大なリスクが発生する。


先ず一番の問題は、航空機内の人間を巻き込む事である。

これは当然避けられないものであり、

私達は本当の意味でテロリストになるという事



次にスフィアの私にとっての問題は、

トリゴノメトリクスに於ける"印章"である。


私は且つて妻の浅黄の紋章を偽造した経験を基に、

私の虹彩を完全に複製したデータを彼に見せ

"緑内障"の治療に於ける"眼内レンズ"の埋込手術を応用し、

スフィア側で"虹彩偽造レンズ"の挿入を行なってもらった。



続いて身体的な問題である。

次元の違う世界で身体に異変が起きても

処置の施しようがない事である。


人体の構造上は瓜二つであっても、

スフィアロイドの血液とトリガーのRGB互換性が、

未だ確立に至っていない件に関しては

互いに死を覚悟で検体となる事に合意した。



最後に、其々の生活環境である。


私やスフィアの私にとって、

掛け替えのない存在を騙して生きる事になるのだ。


私には浅黄という愛するが居る。

無論、トレードで心だけ残す事は不可能である。


例え姿が同じであっても

彼女は別の人間と過ごす事になるのだ。


良くも悪くも瓜二つの世界

スフィアの私も当然同じ事で悩み、何度も相談を重ねた。


そしてトレードした世界では其々の私達

何の保障もない再トレードの日まで演じ通す事を決めた


例え偽者であろうと

同じ者である私達として、偽りなく愛する事を誓ったのだ。





私は且つての研究チームとのシンポジウムのため、

「暫く三音を離れるから留守番を頼む」と浅黄に告げた。


それが彼女との事実上の別れの言葉であった。



3月1日の便で、

アップサイドクロスのライト大陸へ向けて渡航した。


時同じくしてスフィアの私同じ位置へと向かった


長時間のフライトの中で私は浅黄との想い出を振り返り、

枯れ果てるまで涙を流した。


出てくる言葉は唯一つ、「御免なさい」の一言だった。



3月2日の夜、機内に緊急アナウンスが流れた。


甚大な悪天候により、

最悪の場合、海上へ胴体着陸が行なわれるとの指示に

機内は騒然とし始める。


もう後戻りは出来ない。チャンスはたった一回のみ。



誰しも不安が押し寄せる機内で時計は午前2時を回っていた。


次第に薄明かりが差し、

乗客らは天候が回復しつつある安堵を示しだす。


私は、じわじわと滲み出る汗を隠す様に固く拳を握った



午前2時50分頃、轟音と供に天候は再度一変した。


機内は大きく傾き強いうねりを繰り返す。


私自身も開放の衝撃で木端微塵になるとさえ思った。


やがて閃光に包まれ意識が朦朧とする中で

反射した窓が鏡の様に自分を映し、光の彼方へ消えていった



その後の記憶は残って居らず、

ぼんやりと目を開けた時には病院のベッドの上で

私は本当に死んでしまったのかと思った。



聞きなれない呼び名で、

必死に私を呼ぶ声がする。


成功を実感した瞬間であった…