√episode:0 #04 メシア

私がレフト大陸で浅黄と出逢った頃の話。



以前、彼女が生まれ育った或る集落で、
彼女が"メシア"と呼ばれていた件について話そう。


どの世界に至っても"神"なる地位は存在する。

私は科学者として、それを否定したい立場でもある。


しかしこの世は超常現象によって生み出され

私もその存在の一つである事に違いはない。



彼女が住む集落では、

古くから"メシア"の血が大切に受け継がれてきた。


怪我や病を患った者を癒し

作物の不況で飢えが続けば天候を操る

そんな"神の子"と祀られる存在"メシア"だ。


私は宗教学には興味がない。

しかし、その信仰心のとなるものを、

浅黄自身が私の目の前で証明してくれたのだ。



"×狩り"という理不尽極まりない政策により、

深手を負った彼女を保護し、治療を施した私は

彼女の異常なまでの回復力に驚愕したと書いただろう。

後述はそのに迫りたいと思う。



私が調べた限り、浅黄が住んでいたという集落

現在では希少と謂われる"Y"属の人々で構成されていた。


歴史を探ると、各大陸でY属性を持つ者が減少する中で

"三大属性"と呼ばれていた時代から

"Y"のメインRGBを持つ人口率が多く

やがて世界から不遇な扱いを受けたY属性らが集まり

トリゴノメトリクスに於いて唯一とも言える、

メインRGBで"Y"が最大人口率誇る地域であり、

Y属性を持つ者にとっては聖地の様な場所であるとの事。


母国、三音からも、

まるで亡命するかの様にこの地へ渡ったラジアンが居た


その中の夫婦から生まれたのが浅黄の父である。


近親交配が盛んであった"メシア"の一族は、

衰退の一途を辿る中で、集落に様々な人種が増えた事から

後に浅黄の父となるラジアンの子供が

"メシア"へ献上される事になったのだ。


その後、浅黄の父と母が結ばれ、

誕生した新たなる"メシア=浅黄"が

一族も予期せぬ壮絶な世界への始まりとなった。



私が研究し続けていたイエロー"プライマリー"

古代から"天変地異を司る神"として

世界各国で崇められてきたものである。


そしてこの集落で"メシア"と称す者こそが、

その神的な力を宿した人間

"パーソナル・トリガー"だったのだ。


しかし何故、"浅黄"予期せぬ"メシア"だったのか

それが後に判明したのは、ずっと先の事である。



メシアである浅黄の下には日々、多くの者が救いを求め訪れる。

メシアは自身の左手の甲に、

"聖剣"と呼ばれる刃物で"/"を切込み

そして救いを求める者自身は右手の甲に"\"を切込み

互いの傷を重ね合わせる儀式を行なう。


私は良くあるカルト的な行為と思っていた。


しかし、度重なる"偶然"な出来事は

科学者として証明できる域を超えていたのである。



だが、信仰も異なる世界各地のY属らが集まった故に

やがて神を秘めた集落の存在は世間へ広がり

遂には属性の異なる者らもメシアの下へ押し寄せる様になった。


その或る日の事である。


セルシウスの青年がメシアの浅黄へ、

(ノット=大罪により死刑となった親の子供)であると告解

迫害を受けており、≠章を消して欲しいと頼んだ。


いつもの通り儀式を交わし、青年は嬉々としてその場を去った。


そしてこれがイエロー"プライマリー"が有する

メシア一族さえも知らぬ力が引き起こす

最悪な悲劇の幕開けとなったのだ。



メシアの恩恵を享けた青年はその後、

日に日に体調を崩し病院へ駆け込んだ際

"≠"という理由で診察が受けられなかった


「そんな筈がない!」と青年は暴徒化した挙句、

警察へ連行され、紋章の再認証を行なった結果

青年は"≠"のままであった。


そう、メシアの力は天変地異

つまり自然界の力を分け与えたものであり

人工的に作られたもの

ましてや個人の夢や願い事等が叶うというものではなかった


青年は騙されたとばかりに供述を初め、

警察は一斉に捜査を開始

儀式で左右対称に傷を重ねた事から、

その風評被害はまったく関係のない"×(クロスシンボル)"たちまでにも広がった


これが"×狩り"の始まりであった。


メシア派対メシア派×派に別れ、

紛争に発展し、遂には国際問題となり、

集落の殆どの人々が巻き込まれ、尊い命を失った。


メシア一族に於いては、

古くから秘密裏に近親交配を繰り返していたのもあり

ラジアンの浅黄の父を除いては所謂"×(クロスシンボル)"に値し、

"同士"として巻き込まれたクロスシンボルたちから

"裏切り者"とされ殆どが助けを貰ぬままに惨殺された



"△(トライシンボル)"を称しながら逃げ延びる浅黄の父と供に、

浅黄も父の手を片時も放す事無く、

戦火の少ない場所を求めては果てない距離を唯只管に歩いた。


そして戦地から遥か遠く離れた小さな町の医者を訪ね

浅黄の父は自身の臓器売買を懇願し

得た金で浅黄を安全な場所に匿って欲しいと告げた


当時の事をその町医者に尋ねてみた所、

突然且つとても人道ではない事柄を要求され困惑したものの

一先ず衰弱しきっていた親子の検査をしたという。


そして浅黄のRGBに異常が見つかり、

また"TYPE-Y"という特異なRGBである事から

ここにはないRGBの大量の輸血が必要であると父親へ告げた所、

浅黄の父は「そんな事か」と言わんばかりに

親の私は自ずと同じ属性であり

必要な限り輸血をして欲しいと腕を掴まれ頼まれたそうだ。


父親自身も衰弱している上、"TYPE-Y"のストックもない

大量の輸血を行なった場合、父親への輸血が出来ない

命は金では買えるものではない!

と、父親に激しく叱咤したと言う。


しかし父親は何度説得しても応じようとせず、

且つては神の子の父としての地位であったにも関わらず

三音人らしいというか、

土下座をしてまで頼む姿に負けたと町医者は言う。


子供は一命を取留めたが、残念ながら父は救う事が出来ず

哀れんだ町医者が彼の先祖が眠る墓地に、

そっと浅黄の父を埋葬をしたそうだ。


その後、回復した浅黄には

人混みに紛れられる都心部へ逃げる様に告げたと語ってくれた。



その後、私は浅黄に出逢ったのだ。