√kyo #02: ケアレス・ミスキャスト

ほんの2年余り帝都を離れただけでしたが、
短い間に色々変わるモノですね。


音京駅に着いたのが丁度22時ぐらいだったと思います。

駅前はコンサート会場の様に賑わっていました。

同世代の彼たちが訴えかける様に奏でる音楽は、

私にとって欠けているものを象徴している様でした。



実は、両親に内緒でギターを弾いていた時期があったんです。

操り人形で満足していた私は、

或る日、テレビで有名なギタリストの方が

まるでギターを操る様にパフォーマンスされている姿を観て

初めて自身に影響を受けたのがギターであり、音楽でした。


実家の離れでコソコソと練習をする時間が、

やがて私にとっての大切なひとときになったんです。

今となっては少し恥ずかしいですがね…


本音を言うと、少し休む時間が欲しかったのかな…



転入した時期が大学祭の準備と重なっていたため、

キャンパスは活気で溢れていました。

こういう"お祭り騒ぎ"って本当に三音独特だなって感じで

独国での研究詰めの毎日からの解放感も相まって、

暫しの間、本来の学生気分に浸りました。


"無いもの強請り"って言葉が本当にしっくり当て嵌ります。

もし違う生き方をしていたらどうなって居たんだろうって。


他愛もない事で笑い合う彼らを見て羨ましいと思う反面

"今更何を言ってんだ"って自分に言い聞かせていました。



丁度その時です。


「見掛けない顔だね?転入生??
 ね!もしまだ学祭何やるか決まってないなら一緒にやらない??」



少々強引な彼に腕を引っ張られ、連れて行かれたのは講堂でした。


「俺らバンドやるんだけどさ、キミ何か楽器弾けるでしょ?
 何かちょーミュージシャンオーラ出してたからさー(笑)」



たまにこうした解けない理論外の計算問題に出くわす時があります。


『ギターは昔ちょこっと齧ってたけれど…いいよ、自分は本当…』


私とした事が不覚にもまた口を滑らせてしまいました…。

普段から沈着冷静を心掛けてはいるのですが、

私の台本に記載のない"アドリブ"は余り得意ではありません…。



「おーしじゃ決定!! ツインギターなら尚盛り上がるし完璧じゃん!
 因みに俺もギターだから。よろしく!相棒!!」



どっかの首脳会議より胡散臭い握手についつい顔が強張ってしまう


しかしそれからその強引な彼とギターを交わす内に、

少しずつ自分の中で大きなモノが動こうとしていました。


そんな或る日、突拍子もない事を彼が呟いたんです。


「本当に好きな事ってどんだけしてても飽きないよな?
 お前、今凄く楽しそうだよ? 何か抱えてんなら遠慮なく言えよ?」



私とした事が凄い不覚でありました…

こうも簡単に察されてしまうとは…恐るべし日本男児…;


「そっか…きっとオレが思うよりずっとキツい立場なんだろうけど…
 でもさ、人生って何かこう…やったモン勝ちみたいなトコあんじゃん?
 けど、自分から動かさないと回んねぇっつーか…」



我慢の限界でした。


『勝手な事言うなよ!変われるもんなら変わりてーよ!!
 今更水に流せっていうのか!? だったら俺の人生何だったんだよ!?』



下劣な言葉を吐いてしまいました…

でも、それが正直な気持ちには違いありませんでした。


顔を真っ赤にしながら、

必死に怒る私を見て彼は面白そうに微笑んで、


「"てーよ"っつった、"俺"っつった(笑)
 それが本当のお前だよきっと。
 水に流しゃいいじゃん、
 そんでお前のやりたい人生始めたってさ、俺らまだ幾つよ?(笑)」



考えた事もない。いや…教わっていなかったんですよね、きっと。

私は生まれた時から同じ方向しか見て来なかった訳ですから。


そして私の立場を彼なりに理解してくれた上で、

不躾だろうとこんなにも優しい言葉を掛けられるというのは

きっと私なんかよりも、

遥かに彼が人生で苦労したからこそ言える事であり

同時に言葉の重みを感じました。



「すまん、悪かった…。一先ずお前この大学入って来たばかりだろ?
 実は俺も内定決まってんだ。だからこの学祭、一緒に楽しもうぜ?」



楽しいひとときはあっと言う間に過ぎてしまうものです。

そう、独り隠れてギターを弾いていたあの頃の様に。


きっとそれは彼にとっても同じで、

だからこそ、たった一日のために一生懸命になれるのだと。


私が他人から教わる事は知識学問のみだと思っていました。

恐らくそう言い聞かせないと自分自身が納得しなかったのだと思います。


兎に角、兄と比較され、兄より上へ立つ事しか考えていませんでした。

しかしそれは唯の嫉妬故の復讐であり、とても虚しい事です。



自分自身を犠牲にしてまで成ろうとしていたモノは、

無個性且つ、自由自在に弄ばれる操り人形そのものでした…